不思議なおじさん・・

とある日の早朝のこと…
駅に向かって急いでいると、
突然、呼び止められた。

「あの、すみません。」

見ると、なんだか「ジャリおじさん」みたいな感じの小父さんだ。

私の後方を指さして、
「あれ、富士山ですか?」

んん?
なに言ってるのかしらん、このおじさん…

と、振り返ると、そこには紛れもない富士山が。

通りの先に、朝日に照らされてドドーン!
とあるではないか。

誰に訊かずとも、あれは「富士山」だ。
あんなフォルムの山は、二つとない筈だ…

しかも特大である。
いつもは、こんな風には見えない。

それはそれは、美しい姿をしている。

「ああ、そうですねぇ。今日はきれいに見えますね^^」

「そうですよね、富士山ですよね。」

と、小父さんは嬉しそうだ。

そこは「富士見通り」という名の通りで、
昔はその通りの真正面に富士山がとてもきれいに見えたので、
この名がついた、と聞いているが、
近頃では、すっかり景色も変わってしまっている。

先を急いでいたので、足早にその場を立ち去ったが、
あの小父さんが「富士山」を知らなかったわけでは、ないだろう、もちろん・・

きっと、あまりにも美しい富士山に遭遇したので、
誰かに言いたかった、誰かとその瞬間を共有したかった、のだろう。

もし、あの小父さんが呼び止めてくれなかったら、
富士山を背に急ぎ足の私は、
その美しい姿を目にすることはなかっただろう。

小父さんのおかげで、
ささやかな感動を共有することができた…

と、そこでふと思う。

そういえば、あの位置から富士山って、
あんなに大きく見えただろうか…?

自宅の近くからも、時々富士山を見ることはできる。
小学校の4階とか、少し高いところに登れば、
お天気のいい、特に冬場はよく見える。

夕方などは、西日の中に浮き上がる赤富士を見ることもできる。

でも…

昨日見た富士山は、今までに見たものより、
遥かに大きかったように思う…

あれ?

あの不思議なおじさん…
もしかしたら、魔法使いか何かだったのだろうか?

何か不思議な力で、幻想を見せられたのでは、ないかしら?

そんなことをふと考えてしまったり。

或いは、気象現象の何かで、
その瞬間だけ見えた何か、だったのかもしれない…

でも…?

残念なことに、その富士山を写真に残すことができなかった。

いや、もしかすると、もし写真を撮っていたとしても、
いつの間にか消えてしまってたり、したのかも、しれない…

干し柿

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